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22月 2026

「へっぽこコンマスが妄想する“地域医療”という合奏」

鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
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中学・高校と吹奏楽部でフルートを担当していました。
フルートは主旋律を担うことが多く、当時の私は「いかに美しくメロディーを奏でられるか」に意識を集中していたように思います。自分の音を磨くことに夢中で、周囲の音との調和にはまだ目と耳が向いていませんでした。

高校に入り、さまざまな演奏機会を経験し、他県他校の吹奏楽レベルの高さに圧倒されつつも、同じ志をもった仲間と練習に明け暮れる日々でした。

2年生ではコンサートマスターを任されました。

吹奏楽におけるコンサートマスター(コンマス)は、指揮者と団員との間の音楽的な架け橋となり、練習や本番で円滑なコミュニケーションと音楽的な質を高める役割を担います。具体的には、楽団の状況を指揮者に伝え、練習計画を立てたり、演奏の質を保つための音程や音色、表現の指示を団員に伝えたりします。また、団員全体の気持ちをまとめ、本番では舞台の雰囲気を作ることも重要な仕事です。

コンマスになってから、顧問指揮者の合奏前の音合わせ(チューニング)や音階練習の指揮を担当しました。楽器パートごとの音程や音色、バンド全体の音の質、高音と中低音のバランスに耳を傾けるようになりました。

自分の音だけでなく、全体の響きをどう整えるか…

50人余りの音をひとつにまとめることの難しさ。誰かが少し走れば、全体が崩れる。誰かが迷えば、音が乱れる。体調や自信のあるなしでも、音は変化する。

でも、その誰かへの批判や指摘だけで事は収まらない。

互いの音を聴き合い、支え合い、補い合うことで、ひとつの音楽が生まれるのだから、
そこまでメンバーの気持ちと音を高めることができたなら…

そんなもどかしいコンマス時間と、自分の練習と、顧問指揮者との橋渡しと…

そんな日々の積み重ねで迎える本番は、本当に一瞬です。

舞台でスポットライトを浴び、全員が気持ちと息を合わせて曲に向かう、自分たちの奏でる音楽の音圧と空気振動に包まれる感覚…

その瞬間の喜びは、今でも忘れられません。

——結局、求められることの半分くらいしかできないへっぽこコンマスでしたが、その視点の変化は、私にとって大きな転機だったかもしれません。

今年、長女が中学吹奏楽部に入り、夏のコンクールに出場しました。

保護者として舞台袖の緊張感を久しぶりに味わい、たった一度の本番にかけた中高生の姿に触れ、あらためて「吹奏楽っていいな」と、昔を思い出して胸が熱くなりました。

中学生たちの真剣な表情、指導教員の時に厳しくも対等で温かな関わり、保護者の静かな応援——それぞれが、音楽という目に見えないものを支えている…

たまたまお話した、あるお父さんが言っていました。

「自分は音楽なんてわからないけど、舞台袖で前の団体の演奏を待っている時間が一番緊張するんですよね、きっと。自分も地域の消防団の大会で同じような感覚がありました。これまでの努力の成果をみんなで発揮するのみですね!」と。

スポーツでも、地域活動でも、医療でも——みんなで何かに向かっていくということは、それなりに複雑な経路をたどって成立していくもの。だからこそ、そこに共通した感覚が生まれるのだと思います。

そんな折、TVドラマ『19番目のカルテ』で、総合診療の先駆者である赤池医師が語った総合診療医の3つの柱。

「最後はコンダクター(指揮者)。」という言葉が心に残りました。

私個人としては、自分自身も楽器を奏でながら他者と協働していくのだから、総合診療医や地域医療実践医師は、”コンサートマスター“じゃないかな?と思っています。コンダクターは、やっぱり患者住民さんじゃないでしょうか?

地域医療の現場では、ひとりの担当医がすべてを決めるのではなく、他科の医師、看護師、薬剤師、事務職など、多職種が協働し、話し合いながら、患者・家族の意思決定を支え、実行していきます。

それぞれが異なる「音」に耳を澄ませ、あらかじめ調整を重ね、必要なタイミングで指揮者の「合図」を促す。
時には沈黙を守り、時にはテンポを変える——その姿は、まさにコンサートマスターのようです。

吹奏楽の構造にたとえるなら、地域医療のチームはこんな感じでしょうか:

🎼地域医療チームを吹奏楽にたとえると…

🎼 コンサートマスター(響きの調律者・場を整える)
総合診療医、地域医療実践医師

🎺 高音楽器(主旋律・現場の推進力)
臓器別専門医、看護師

🎷 中音楽器(副旋律・共鳴と調整)
看護師、薬剤師、栄養士、医療ソーシャルワーカー(MSW)

🎶 低音楽器(土台・支えの力)
地域行政、制度設計者

🥁 打楽器(リズム・精度・場の締め)
検査技師、事務職

それぞれが異なる技術と音色を持ち、異なる譜面を見ながらも、患者さんや地域の課題に向かって、ひとつの音楽を奏でている。
誰かが走れば、誰かが支え、誰かが迷えば、誰かが寄り添う。
そして、患者さんやその家族が静かに、でも確かに「合図」を出している——その瞬間ごとの即興性と、専門性を持ち寄り築かれた取り組みが、地域医療の本当の合奏なのかもしれません。

いまだにへっぽこコンマスですが、私はそんな合奏の現場がやっぱり好きです。

Author:紙本 美菜子


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